研究内容
Ribosome
乳酸菌はヒトの健康を促進する有名な細菌の一つです。乳酸菌を摂取することで腸内環境が整い、免疫力がアップ、美容効果もある、と良いことが多く挙げられますが、乳酸菌(LAB)が腸上皮細胞のエピゲノムや細胞機能に及ぼす影響などの基本的なことは、ほとんど研究されておらず、多くのことが説明できないまま効果だけが報告されています。
私たちは、ヒト皮膚線維芽細胞(HDF)と乳酸菌(LAB)の共生関係に興味を持ち、研究を進めています。 培養条件下において、LABを取り込んだ細胞は、胚性幹細胞様の細胞クラスターを形成しました。さらに、そのクラスターは複数の胚葉由来の多能性幹細胞へと分化しました。 マイクロアレイ解析の結果、この細胞クラスターはHDF細胞よりも多能性が高いことが明らかとなり、それはNANOGの発現によって裏付けられました。一方で、体の前後軸形成に関与するHOX遺伝子クラスターの発現は低下していました(Ohta et al., PLOS ONE, 2012)。 これらの現象を踏まえ、私たちはこの多能性誘導に関わる細菌由来の因子をさらに解析した結果、それがリボソームであることを発見しました。 リボソームを線維芽細胞に取り込ませることで、乳酸菌と同様に多能性を誘導できるのです(Ito et al., Scientific Reports, 2018)。 リボソームは一般に翻訳を担う分子機械として知られていますが、**moonlighting function(副次的機能)**も持つことが近年明らかになってきました。私たちは、多能性誘導因子としてのリボソームの働きがその一例であると考えています。 現在は、リボソームを介した多能性獲得の分子メカニズムの解明に取り組んでいます。

TSUKUSHI
Tsukushi(TSK:ツクシ)は当研究室で同定し単離生成した分泌型タンパク質であり、命名されました。ツクシの由来は、ニワトリ初期胚における発現様式が日本固有の植物であるツクシによく似ていたことから名付けられました。TSKはニワトリの初期発生において重要な役割を担うTGF-β、Notch、FGFなど様々なシグナル経路と相互作用する興味深い因子で、正常な胚発生に大きく貢献していることが考えられています(Ohta et al., 2004; Ohta et al., 2006:Kuriyama et al., 2006)
TSKはニワトリ初期胚の眼において毛様体と網膜幹細胞において発現がみられ、眼の形成に関与し、Wntシグナルを阻害することによって網膜幹細胞の増殖と分化を制御している(Ohta et al., 2011)。さらにマウスの脳においては、嗅球と脳の神経幹細胞ニッチが存在する側脳室と海馬歯状回において発現し、さらにTSK欠損型マウスでは、水頭症様に脳室が拡大する。TSKはマウスの脳においても同様に神経幹細胞ニッチの制御因子として働くと考えています (Ito et al., under the review)。
TSK欠損型マウスを解析することによって、TSKは神経ネットワーク形成に関与すること(Ito et al 2010; Hossain et al 2013)、毛幹細胞の発達と肌の創傷治癒に関与すること(zniimori et al 2012)、また、TSKは細胞外メディエーターとしてさまざまな現象を引き起こし、細胞外ドメインにおけるさまざまなシグナル伝達を制御していると報告されています。

AKHIRIN
Akhirin(AKH:アキリン)も、本研究室によってニワトリレンズの初期胚から同定された分泌型タンパク質です。
AKHはその構造上に、LCCL(Limulus factor C, Coch-5b2 and Lgl1)ドメインと二つのVWAドメイン(vWAドメインの欠損で血液凝固障害が現れることがしられています。)をもち、ヘテロ親和性の接着活性を示します。ニワトリの眼の形成過程において網膜や毛様帯辺縁帯に発現し(Ahsan et al 2005)、脊髄においても中心管の周りで発現がみられ、脊髄損傷時にも発現が上昇することを報告し(Athary et al 2014)、神経幹細胞ニッチ制御分子であることが考えられました。
2020年に、AKHがマウスの脳の神経幹細胞ニッチにおいても発現し、脳の形成に関与することを報告しました(Anam et al 2020)。AKHの脳の神経幹細胞ニッチ制御の詳しい分子メカニズムの解析を現在行なっています。
